三、現時に於ける日本を繞る思想宣伝戦
(イ)、支那に於けるコミンテルンの策動
一九一四年世界大戦の勃発に際して、第二インターナショナルに属する各国社会党が愛国主義に転向したのに憤慨したレーニン一派が之を脱退し、一九一七年終に露西亜革命に成功するや、世界革命を目指して第三インターナショナル即ちコミンテルンを創設して、世界赤化宣伝を開始した事は衆知である。
第三インターナショナルは公然たる大衆煽動の本拠であり赤化宣伝の本部である。此の国際的革命宣伝本部はモスコーに本部を置き、各国の共産党を其の支部とし、二年に一回開かれる世界大会を最高機関とし、其の下に執行委員会、事務局、機関紙等の組織を整へて、成立以来十八年、各国共産党に指令して共産主義の宣伝及政治社会秩序の攪乱の陰謀工作を執拗に続けて来た。
この本拠こそ実にソ聯邦の実体であり、偽装せられたソ聯邦そのものなのである。ソ聯邦は内に強大なる言論統制の組織、機関を有して其の国民を制圧駕御し、出版、放送、言論報道機関を国営として完全なる言論の統制を実施し、外には諸外国の一切の宣伝を遮断し、一方タス通信を以て情報宣伝を一途に統御し、各国通信員の報道に対しても極度の制限を加へ、あらゆる海外のソ聯機関をして情報蒐集機関として宣伝戦に備へてゐる。
然しながら最近に於ける独逸及伊太利に於けるファシズムの全盛、独国の積極的東方政策及極東に於ける日本の積極的政策等のソ聯邦に対する脅威が各方面に増大するや、ソ聯邦はファシズム反対の民主々義国家と提携し、又第二インターナショナルに手を差延べ、所謂帝国主義及ファシズムに対抗する統一戦線を張る可く、人民戦線運動なる前衛宣伝組織を結成し、仏国に於いてはブルム内閣を成立せしめ、
右のコミンテルンの対支赤化活動の中心指導機関即ち極東局は上海或は、
㋑中ソ文化協会(会長孫科、名誉会長顔恵慶、ボゴモロフ大使)
表面文化団体を標榜するものゝ、支那朝野の親ソ分子を多数吸収し、巧妙な親ソ抗日宣伝を行つてゐる。例へばソ聯邦の各種記念日を初め其他機会ある毎に盛大なる会合を催し、機関紙「中ソ文化」を発行し赤化抗日宣伝を行つてゐる。
㋺上海ソ聯邦居留民俱楽部
一九三七年三月上海ソ聯邦領事スピルワネークを名誉会長として創設されたもので、赤色宣伝員の集会所、陰謀本部として警戒されてゐる。
㋩全ソ聯邦輸出組合聯合支部(共同租界北京路二号、支部長エムシン)
ソ聯邦の対支貿易機関であつて、上海、漢口、天津に支部を有し、諜報及び赤化抗日宣伝の支部として利用されてゐる疑ひ充分である。
㋥天津インヴェストメント・コーポレイション
一九三五年末、旧北鉄ソ聯従業員等に依りて設置されたソ聯人銀行であつて、北支方面の赤化資金の供給機関として活動してゐる。上海にその支店開設の計画がある。
㋭福祥公司
従来貿易会社としてソ聯邦の諜報機関たる役目を勤めて居たが最近は米国々籍の下に業務継続し、上海、天津、張家口等に支店を有し、ソ聯邦の諜報機関として活躍してゐる。
㋬ソ聯指導の抗日宣伝の言論通信機関として、タス支局を始めチャイナ・デーリー・ヘラルド(支那名「中国報道」、社長ハーレル、主任記者デューツフ)等は共産党御用紙の役目を勤め、其の他上海イヴニング・ポスト、チャイナ・プレス、時事新報等は何れも其の背後関係及資金をソ聯より得てゐる疑のあるもので、其の他「中国呼声」を始めとする各種抗日雑誌、定期印刷物等が夥しく出版されてゐる。
㋣右の他、ソ聯邦国営極東商船隊上海代理店(共同租界広東路五一号に在り、社長ソレヴィッチ、助手イロース・ランド)、全ソ聯邦石油トラスト上海出張所(共同租界広東路廿号に在り所長フリードマン、助手上海総領事スピルワネック夫人)、ソ聯国際図書株式会社上海代理店(共同租界群安寺路、店主カーツ)、モスクワ人民銀行上海支店(共同租界江西路・支店長イワノフ)、等の諸機関は抗日人民戦線と密接なる聯繫のもとに、平津民族解放先鋒隊、各都市抗日救国会、各省学生救国会、各工人救国会等の赤色抗日諸団体の活動を支援し、一方在上海のG・P・U の密偵網と連絡しつゝ、「支那の赤化は世界赤化の鍵である」とのレーニンの信条を奉じて日支事変の真只中に於て暗躍してゐるのである。
(ロ)、中国共産党及紅軍
更にコミンテルンは、中国共産党及紅軍をして国民政府との合作に依る抗日宣伝を展開せしめてゐるが、其の動向に就いて大要を述べれば次の如くである。
本年三月上旬コミンテルンはボロツキー、コルスキー及中国共産党秘書長李幕飛、同政治部長石仏遵を代表として南京に派し、孫科を通じて要談せしめた。之に対し三月中旬には南京政府より賀衷寒、張中、戴笠等を派し綿服十万著を贈り毛沢東と会見せしめ、四月十四日西安に於て南京代表顧祝同と共産軍代表周恩来との間に、抗日宣伝及抗日挑戦に関する正式調印を終つたのである。
されば北支事変勃発するや、コミンテルンは共産党駐ソ代表王明をしてソ聯と陝西省膚施に在る中国共産党本部とを往復せしめ、抗日挑戦の宣伝、煽動を指導狂奔せしめたのである。其後事変が上海に拡大するやコミンテルンの策動は更に熾烈となり、一方に於て国民政府を煽動して入獄中の共産党指導者を釈放せしめ、終に支那事変最高潮の中にソ支不可侵条約を締結し、他面に於て本国より優秀なる煽動員、飛行機、戦車、機関銃等を多数輸送する事を約したと伝へられてゐる。
(ハ)、満洲に於ける策動
支那に於けるコミンテルンの煽動宣伝工作に付ては以上に止めて、次に満洲に対する活動に就いて述べねばならない。
満洲の赤化に対してもコミンテルンは早くから之に著目し、北鉄沿線一帯を根拠として全満赤化に努め、殊に満洲に移住せる朝鮮人に対して宣伝を集中した結果、忽ち強固な赤化組織の扶植を見、中国共産党の満洲支部として満洲省委員会を始め各種の機関が組織され、都市に於ける赤化細胞組織及各地共産匪賊の遊撃運動に狂奔して来たが、最近に於ける抗日人民戦線運動の一環として、東北抗日救国政府の樹立及抗日救国聯合軍の組織を目標とし、満洲共産党はコミンテルンから多量の武器及軍費の支給を得て、各地共匪をして武装蜂起せしめ遊撃運動を開始し、組織拡大運動を計り、朝鮮革命軍、反満抗日匪と連合し、一般の思想的背景なき純匪を煽動懐柔して抗日人民戦線に合流せしめんと苦心してゐる。
コミンテルンは之が為にソ聯邦内で教育せる満、支、鮮人等の工作員を多数国境線突破其他の方法に依り入満せしめてゐるのである。
満洲共産党の最高指導機関は最近では哈爾濱 東方へ移動した如く、彼等の所在は全く隠蔽されてゐる。満洲共産党に対するコミンテルンの指導は主として沿海州方面の諸機関、就中コミンテルン中国代表団分派機関を通じ、東部満ソ国境方面から満洲国内の下級機関を経て之を行ひ、或は無電を以て連絡してゐるとも謂はれてゐる。
過般北鉄譲渡の結果、満洲に於ける共産党の公然たる機関は一掃されたものゝ依然として共産匪の出没あり、軍事諜報者の蠢動あり、反満抗日テロ工作員の活動ありで、その活動は益々地下潜行的となりつゝある事は注目に価するものである。
偖 て以上を大観するに、現在日本を包囲的に攻撃しつゝある思想宣伝戦の主体は、明確に共産党及びその亜流の執拗なる活動である事を知るのである。而してその一端は支那事変を契機として、現実に曝露されたのである。
かく考ふる時我国としては、対内対外に思想宣伝戦に対する対策の整備強化を遂行し、国防を完備する事は当面の急務であり、一日も準備を忽 にする事が出来ない情勢に在るのである。
更にコミンテルンは、中国共産党及紅軍をして国民政府との合作に依る抗日宣伝を展開せしめてゐるが、其の動向に就いて大要を述べれば次の如くである。
本年三月上旬コミンテルンはボロツキー、コルスキー及中国共産党秘書長李幕飛、同政治部長石仏遵を代表として南京に派し、孫科を通じて要談せしめた。之に対し三月中旬には南京政府より賀衷寒、張中、戴笠等を派し綿服十万著を贈り毛沢東と会見せしめ、四月十四日西安に於て南京代表顧祝同と共産軍代表周恩来との間に、抗日宣伝及抗日挑戦に関する正式調印を終つたのである。
されば北支事変勃発するや、コミンテルンは共産党駐ソ代表王明をしてソ聯と陝西省膚施に在る中国共産党本部とを往復せしめ、抗日挑戦の宣伝、煽動を指導狂奔せしめたのである。其後事変が上海に拡大するやコミンテルンの策動は更に熾烈となり、一方に於て国民政府を煽動して入獄中の共産党指導者を釈放せしめ、終に支那事変最高潮の中にソ支不可侵条約を締結し、他面に於て本国より優秀なる煽動員、飛行機、戦車、機関銃等を多数輸送する事を約したと伝へられてゐる。
(ハ)、満洲に於ける策動
支那に於けるコミンテルンの煽動宣伝工作に付ては以上に止めて、次に満洲に対する活動に就いて述べねばならない。
満洲の赤化に対してもコミンテルンは早くから之に著目し、北鉄沿線一帯を根拠として全満赤化に努め、殊に満洲に移住せる朝鮮人に対して宣伝を集中した結果、忽ち強固な赤化組織の扶植を見、中国共産党の満洲支部として満洲省委員会を始め各種の機関が組織され、都市に於ける赤化細胞組織及各地共産匪賊の遊撃運動に狂奔して来たが、最近に於ける抗日人民戦線運動の一環として、東北抗日救国政府の樹立及抗日救国聯合軍の組織を目標とし、満洲共産党はコミンテルンから多量の武器及軍費の支給を得て、各地共匪をして武装蜂起せしめ遊撃運動を開始し、組織拡大運動を計り、朝鮮革命軍、反満抗日匪と連合し、一般の思想的背景なき純匪を煽動懐柔して抗日人民戦線に合流せしめんと苦心してゐる。
コミンテルンは之が為にソ聯邦内で教育せる満、支、鮮人等の工作員を多数国境線突破其他の方法に依り入満せしめてゐるのである。
満洲共産党の最高指導機関は最近では
過般北鉄譲渡の結果、満洲に於ける共産党の公然たる機関は一掃されたものゝ依然として共産匪の出没あり、軍事諜報者の蠢動あり、反満抗日テロ工作員の活動ありで、その活動は益々地下潜行的となりつゝある事は注目に価するものである。
かく考ふる時我国としては、対内対外に思想宣伝戦に対する対策の整備強化を遂行し、国防を完備する事は当面の急務であり、一日も準備を
(『近代戦と思想宣伝戦』、内閣情報局、昭和12年)
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