2019年11月7日木曜日

大嘗祭(和田英松)――一、大嘗祭、新嘗祭、神今食の別

一、大嘗祭、新嘗祭、神今食の別


御即位の礼は、僅に一日で終りますが、大嘗祭の方は、祭典に続いて宴会がありまして、数日に亘つて居ります。それ故、荘厳にして神々しいところや、華美にして面白いところのある御儀式であります。此の御儀式は上つがたのみではなく、下々のものまでも奉仕致し、種々の催しもございまして、実に愉快に楽しく、上下一致で執行せられたものであります。まづ始めに大嘗祭、新嘗祭、神今食の別から述べまして、其の起源変遷等の概略に及び、それから儀式のありさまを御話する積りであります。詳細な事は、到底僅の時間では尽されない、ほんの大要だけをお話致す心得でございます。

大嘗祭は、古く「オホニヘマツリ」とも、「オホンベマツリ」ともよませてありまして天皇陛下が、新穀を天照大神、及び天神地祇に御備へなされ、みづからもまた之を聞食きこしめす御儀式であります。これに嘗の字をあてたのは、礼記の祭儀に、「春禘秋嘗」とあるによつたものと見えます。

全体、天皇陛下が、天照大神、天神地祇に神饌を御備へなされて、親らも聞こし召す御祭典には、二様あります。一は旧穀を以てせらるゝ儀で、之を神今食と書しまして、「ジンゴンジキ」とも「カンイマケ」とも申します。之れは六月十一日、十二月十一日の両度、中和院内の神嘉殿で行はせらるゝのであります。

二は新穀を以てせらるゝ儀で、これには二様あります。一は年々十一月下卯日に神嘉殿で行はせられますので、之を新嘗祭と記して「ニヒナメマツリ」と申します。二は御代の始に十一月下卯の日に、大嘗宮で行はせらる御親祭で、これが即ち大嘗祭であります。神今食は、御祭典の後に、宴会を行はれる事はありませんけれど、大嘗新嘗は行はれるので之を節会と申します。但し、新嘗祭にては、辰の日の豊明節会が一日のみですが、大嘗祭の方は、豊明節会を午の日に行ひ、辰巳の両日にも節会を行はれるのであります。

要するに、大嘗祭は、新嘗祭を大きくしたもので、称徳天皇の詔には「大新嘗」と見えて居ります。また貞観儀式、延喜式などには、践祚大嘗祭と、特に践祚の二字を冠して居ります。また、之れを大嘗会、新嘗会とも申しますが、これは、節会の方から称へたのであります。


(和田英松『國史國文之硏究』、雄山閣、大正十五年)

0 件のコメント:

コメントを投稿