(明治四年八月二十八日)
朕惟フニ、兵民途ヲ分チ寛猛治ヲ異ニス。其律ヲ定メ法ヲ設クルニ於テ、豈斟酌商量、以テ其宜ヲ制セサル可ケンヤ。頃、海陸軍律撰輯竣ヲ告グ。朕、之ヲ閲スルニ、損益要ヲ得、軽重度ニ合セリ。依テ頒布シ、有司ヲシテ遵守シ、軍人ヲシテ懲誡スル所アラシム。
○兵民途ヲ分チ 軍人と一般国民とは、職分が異なつてゐるといふこと。
○寛猛治ヲ異ニス 寛大に治めるのと厳格に治めるのとのちがひがあるといふこと。「寛猛」は、「寛厳」と同じ。
○律ヲ定メ法ヲ設ク 「律」は、刑罰を定めた規則即ち刑法、「法」は、その他の法令である。
○斟酌商量 事情を考へてはかり定めること。「斟酌」は、「参酌」と同じ。いろいろな情実をくみとつて事をきめることをいふ。「周語」に曰ふ。「耆艾之ヲ修メ、而ル後ニ王斟酌ス焉。」
○撰輯 文または詩歌等を撰びあつめることをいふ。「撰集」と同じ。
○閲スル 「閲」は、「検」の音の転じたもの。「検めて見る」ことをいふ。
○損益要ヲ得 「繁簡要を得」といふに同じ。詳しく説く必要のあるところは、これを詳しく説き、簡単でよいところは、簡単にしてあつて、よくその趣意が徹底してゐること。
○軽重度ニ合セリ 大切なところとさほど大切でないところを見分けて、適度に取扱つてあること。
○頒布 多くの者に分けてひろめる。
○有司 それぞれの係の者。
○懲誡 こらしめいましめる。不正な行為に対して制裁を加へること。「懲戒」の文字が用ゐられることもある。
〔史実〕
ここに掲げ奉つたのは、新に撰輯した海陸軍律の草案を御親閲あそばされて、明治四年八月二十八日、これを頒布せしめたまうた時の上諭である。
三浦藤作 謹解『歴代詔勅全集 第5巻』(河出書房、昭和15年)
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