2017年11月17日金曜日

海陸軍律頒布の上諭

(明治四年八月二十八日)


チンオモフニ、兵民ヘイミンミチワカ寛猛クワンマウコトニス。ソノリツサダハフマウクルニオイテ、アニ斟酌シンシヤク商量シヤウリヤウモツソノヨロシキセイセサルケンヤ。コノゴロ海陸カイリク軍律グンリツ撰輯センシフヲハリグ。チンコレケミスルニ、損益ソンエキエウ軽重ケイチヨウガツセリ。ヨツ頒布ハンプシ、有司イウシヲシテ遵守ジユンシユシ、軍人グンジンヲシテ懲誡チヨウカイスルトコロアラシム。

兵民ヘイミンミチワカ 軍人と一般国民とは、職分が異なつてゐるといふこと。

寛猛クワンマウコトニス 寛大に治めるのと厳格に治めるのとのちがひがあるといふこと。「寛猛」は、「寛厳」と同じ。

リツサダハフマウ 「律」は、刑罰を定めた規則即ち刑法、「法」は、その他の法令である。

斟酌シンシヤク商量シヤウリヤウ 事情を考へてはかり定めること。「斟酌」は、「参酌」と同じ。いろいろな情実をくみとつて事をきめることをいふ。「周語」に曰ふ。「耆艾キガイ之ヲ修メ、而ル後ニ王斟酌ス焉。」

撰輯センシフ 文または詩歌等を撰びあつめることをいふ。「撰集」と同じ。

ケミスル 「けみ」は、「けむ」の音の転じたもの。「あらためて見る」ことをいふ。

損益ソンエキエウ 「繁簡要を得」といふに同じ。詳しく説く必要のあるところは、これを詳しく説き、簡単でよいところは、簡単にしてあつて、よくその趣意が徹底してゐること。

軽重ケイチヨウガツセリ 大切なところとさほど大切でないところを見分けて、適度に取扱つてあること。

頒布ハンプ 多くの者に分けてひろめる。

有司イウシ それぞれの係の者。

懲誡チヨウカイ こらしめいましめる。不正な行為に対して制裁を加へること。「懲戒」の文字が用ゐられることもある。


〔史実〕
ここに掲げ奉つたのは、新に撰輯した海陸軍律の草案を御親閲あそばされて、明治四年八月二十八日、これを頒布せしめたまうた時の上諭である。


三浦藤作 謹解『歴代詔勅全集 第5巻』(河出書房、昭和15年)

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