2017年10月13日金曜日

御即位の宣命

(明治元年八月二十七日)


現神あきつみかみ大八洲国おほやしまぐにろしめす天皇すめら詔旨おほみことらまとりたまふ勅命おほみことを、親王みこたち諸臣おほきみたち百官人等もものつかさのひとたち天下あめのした公民おほみたからもろもろ聞食きこしめさへとりたまふ。

かけまくもかしこ平安宮たひらのみや御宇あめのしたしろしめ倭根子やまとねこ天皇すめらみことりたまふ天日嗣あまつひつぎ高御座たかみくらわざを、かけまくもかしこ近江あふみ大津宮おほつのみや御宇あめのしたしろしめしし天皇すめらみこと初賜はじめたま定賜さだめたまへるのりまにまつかまつれと仰賜おほせたま授賜さづけたまひ、かしこ受賜うけたまへる御代みよ御代みよ御定おんさだめのるがうへに、方今いま天下あめのした大政おほみまつりごといにしへかへたまひて、橿原宮かしはらのみや御宇あめのしたしろしめしし天皇すめらみこと御創業はじめたまへるわざいにしへもとづき、大御世おほみよ弥益益いやますます御代みよ個成賜かためなしたまはむ大御位おほみくらゐつかたまひて、すすむも不知しら退しりぞくも不知しらかしこさくとりたまふ大命おほみことを、もろもろ聞食きこしめさへとりたまふ。

しかるに、天下治あめのしたしろしめたまへるきみは、良弼よきたすけて、たひらけくやすらけく治賜をさめたまものりとなむきこしめす。ここ朕浅劣あれをぢなしいへども、親王みこたち諸臣おほきみたちあひあななひたすまつらむことよりて、仰賜おほせたま授賜さづけたまへる食国をすくに天下あめのしたまつりごとは、たひらけくやすらけく仕奉つかへまつるべしとおもほしめす。ここいよよ正直しやうぢきこころいだきて、天皇すめら朝廷みかどもろもろたす仕奉つかへまつれとりたまふ天皇すめら勅命おほみことを、もろもろ聞食きこしめさへとりたまふ。

〔註解〕
平安宮に御宇す倭根子天皇は孝明天皇、大津宮に御宇しし天皇は天智天皇、橿原宮に御宇しし天皇は神武天皇の御事と拝せられる。


〔史実〕
明治元年(慶応四年)八月二十七日、明治天皇には、紫宸殿に於て、即位の大礼を挙げさせたまうた。その御儀式には、従来の流例を改めたまひ、専ら古制に則らせられた。内外多事の折とて、大嘗祭は、特に御延期仰せ出され、東京へ御遷都の後に挙行あらせられた。

ここに謹載したのは、その御即位の宣命である。


三浦藤作 謹解『歴代詔勅全集 第5巻』(河出書房、昭和15年)


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